特集 着床のためにできること ~子宮内フローラとラクトフェリン~
妊娠しやすい体にとって重要だと注目されている、子宮内の細菌叢(フローラ)。そして、子宮内の環境を整えるとされるラクトフェリン。不妊治療専門クリニック2名のドクターからお話を伺いました。
津田沼IVFクリニック 吉川 守 先生

1991年山梨医科大学(現・山梨大学)卒業。亀田総合病院、船橋二和病院、セントマーガレット病院、山王病院などを経て、2010年11月I津田沼IVFクリニックを開設。
◆子宮内フローラの乱れから細菌性腟症に
数年前まで健康なヒトの子宮内は無菌だと考えられてきました。しかし、次世代シーケンサーなど技術の進歩で、子宮にも細菌叢(フローラ)があり、その一部は腟内フローラからきていることがわかってきました。腟内フローラは子宮内フローラを反映していると推測され、腟内フローラの改善が、子宮内フローラの改善につながると考えられます。

生殖適齢期の健康な女性の腟内には、善玉菌であるラクトバチルス属乳酸桿菌が豊富に存在します。ラクトバチルス属は乳酸や抗菌物質を生産し、病原性細菌やウイルスなどが増殖できない酸性粘液の環境を作り、感染症から腟を守る役割を担っています。しかし、体調不良、過労、ストレスなどによる体力や免疫力の低下などでラクトバチルス属の菌量や活性が低下すると、腟内の正常なフローラのバランスが崩れてしまいます。すると大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌などが通常以上に増殖し、細菌性腟症となります。
◆ラクトバチルスとラクトフェリンはお互い助け合う関係
一方、機能性のタンパク質であるラクトフェリンは、細菌の生存・増殖に必要な鉄を奪うことにより細菌の発育や増殖を抑えるため、腟内フローラを良好な状態に保つと考えられています。当院では、子宮内フローラが検査しやすくなったことや、検査データの結果が早く出るようになったことなどをきっかけに、ラクトフェリンを導入し始めました。

子宮内フローラの検査をすると、ラクトバチルス属がほぼいない方もいます。そういう方にはラクトバチルス属の腟剤と同時にラクトフェリンを飲んでいただいて、2カ月後に再検査をします。

ラクトバチルスがそれなりにある方はラクトフェリンだけを、病原菌がいる方には抗生剤で腟内を一度リセットしてから腟錠とラクトフェリンを飲んでもらうなどのようにしています。そうすることで腟内、さらには子宮内のフローラを健全に導くことができます。
神奈川レディースクリニック 小林 淳一 先生
慶應義塾大学医学部卒業。1984 年より習慣流産の研究と診療に携わり、1989 年より済生会神奈川県病院においてIVFを不妊症・不育症の診療に導入。その後、新横浜母と子の病院の不妊・不育・IVFセンター長に就任。2003 年、神奈川レディースクリニックを開院する。患者さまの個々のペースに合わせた無理のない医療を目指す。
◆腟や子宮内の環境を整えるラクトフェリン
サプリメントに関してもよく聞かれるのですが、これまでの経験から、着床不全に関してはやはりラクトフェリンが効果的だと感じています。それゆえ私のクリニックでは移植周期の方全員にラクトフェリンをおすすめしているほどです。

よく妊娠中期で流産してしまう、大変お気の毒な患者さんがいます。子宮の入口に雑菌が入り、炎症が起きて破水してしまうわけです。でも、こうした流産を防ぐのにもラクトフェリンは有効です。子宮内の乳酸菌を増やすことで、腟の中の雑菌の繁殖を抑えることができるからです。
ラクトフェリンとは?
ラクトフェリンとは、感染防御の機能を備えたたんぱく質です。人間の母乳に多く含まれており、生まれたばかりの赤ちゃんをウイルスや菌から守る役割を担っています。もちろん大人にとっても重要。腸内細菌の状態を整え、免疫力向上が期待できるからです。

さらに数年前、子宮内環境にも有用ではないかという研究報告があって以降、ラクトフェリンは子宮内フローラを整える成分として注目されています。着床不全の方が移植前月から服用すると着床率が上がり、流産の予防にもつながると言われています。ただ、ラクトフェリンは体内でつくられるものの、多くはなく、乳製品から摂ることもできません。だからこそ服用する場合は腸にしっかり届いて体内の吸収効率を高めてくれる「腸溶性」のサプリメント選ぶことをおすすめします。
*2020年秋号、2022年春号に掲載した記事をジネコ編集部が再編集しました。


© Copyright 2022  Jineko


特集 着床のためにできること ~子宮内フローラとラクトフェリン~
妊娠しやすい体にとって重要だと注目されている、子宮内の細菌叢(フローラ)。そして、子宮内の環境を整えるとされるラクトフェリン。不妊治療専門クリニック2名のドクターからお話を伺いました。
津田沼IVFクリニック 吉川 守 先生

1991年山梨医科大学(現・山梨大学)卒業。亀田総合病院、船橋二和病院、セントマーガレット病院、山王病院などを経て、2010年11月I津田沼IVFクリニックを開設。
◆子宮内フローラの乱れから細菌性腟症に
数年前まで健康なヒトの子宮内は無菌だと考えられてきました。しかし、次世代シーケンサーなど技術の進歩で、子宮にも細菌叢(フローラ)があり、その一部は腟内フローラからきていることがわかってきました。腟内フローラは子宮内フローラを反映していると推測され、腟内フローラの改善が、子宮内フローラの改善につながると考えられます。

生殖適齢期の健康な女性の腟内には、善玉菌であるラクトバチルス属乳酸桿菌が豊富に存在します。ラクトバチルス属は乳酸や抗菌物質を生産し、病原性細菌やウイルスなどが増殖できない酸性粘液の環境を作り、感染症から腟を守る役割を担っています。しかし、体調不良、過労、ストレスなどによる体力や免疫力の低下などでラクトバチルス属の菌量や活性が低下すると、腟内の正常なフローラのバランスが崩れてしまいます。すると大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌などが通常以上に増殖し、細菌性腟症となります。
◆ラクトバチルスとラクトフェリンはお互い助け合う関係
一方、機能性のタンパク質であるラクトフェリンは、細菌の生存・増殖に必要な鉄を奪うことにより細菌の発育や増殖を抑えるため、腟内フローラを良好な状態に保つと考えられています。当院では、子宮内フローラが検査しやすくなったことや、検査データの結果が早く出るようになったことなどをきっかけに、ラクトフェリンを導入し始めました。

子宮内フローラの検査をすると、ラクトバチルス属がほぼいない方もいます。そういう方にはラクトバチルス属の腟剤と同時にラクトフェリンを飲んでいただいて、2カ月後に再検査をします。

ラクトバチルスがそれなりにある方はラクトフェリンだけを、病原菌がいる方には抗生剤で腟内を一度リセットしてから腟錠とラクトフェリンを飲んでもらうなどのようにしています。そうすることで腟内、さらには子宮内のフローラを健全に導くことができます。
神奈川レディースクリニック 小林 淳一 先生
慶應義塾大学医学部卒業。1984 年より習慣流産の研究と診療に携わり、1989 年より済生会神奈川県病院においてIVFを不妊症・不育症の診療に導入。その後、新横浜母と子の病院の不妊・不育・IVFセンター長に就任。2003 年、神奈川レディースクリニックを開院。
◆腟や子宮内の環境を整えるラクトフェリン
サプリメントに関してよく聞かれるのですが、これまでの経験から、着床不全に関してはやはりラクトフェリンが効果的だと感じています。それゆえ私のクリニックでは移植周期の方全員にラクトフェリンをおすすめしているほどです。

よく妊娠中期で流産してしまう、大変お気の毒な患者さんがいます。子宮の入口に雑菌が入り、炎症が起きて破水してしまうわけです。でも、こうした流産を防ぐのにもラクトフェリンは有効です。子宮内の乳酸菌を増やすことで、腟の中の雑菌の繁殖を抑えることができるからです。
ラクトフェリンとは?
ラクトフェリンとは、感染防御の機能を備えたたんぱく質です。人間の母乳に多く含まれており、生まれたばかりの赤ちゃんをウイルスや菌から守る役割を担っています。もちろん大人にとっても重要。腸内細菌の状態を整え、免疫力向上が期待できるからです。

さらに数年前、子宮内環境にも有用ではないかという研究報告があって以降、ラクトフェリンは子宮内フローラを整える成分として注目されています。着床不全の方が移植前月から服用すると着床率が上がり、流産の予防にもつながると言われています。ただ、ラクトフェリンは体内でつくられるものの、多くはなく、乳製品から摂ることもできません。だからこそ服用する場合は腸にしっかり届いて体内の吸収効率を高めてくれる「腸溶性」のサプリメントを選ぶことをおすすめします。
動画で解説!
*フリーマガジン「Jineko 2020年秋号」「Jineko 2022年春号」より再編集しています


© Copyright 2022  Jineko